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魂柱継ぎ足しの記

この小文は寸足らずになった魂柱を継ぎ足してしまったお馬鹿な行動の顛末である。これまでのコンテンツは少なくとも誰かの参考になるだろうと考えながら、その誰かの為に書いてきた。けれども魂柱の継ぎ足しなど誰も試みる事はないだろうから、この小文は本当に何の役にも立たないに違いない。ま、退屈な時に漫画を読む感覚で読み流して頂きたい。

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マリア/チェチリア(在伊ピアニスト、U/ササキさんが命名した愛器の名前)はこの世に生まれて一年余り、この間にかなり成長した。つまり胴の厚みが大きくなったのである。フラットバックの裏板が弦の張力によって若干押し出されたのが原因のようだ。

これに気付いたのは弦を替える際に簡単に魂柱が倒れてしまった事による。もう一度立てようとしても楽器が膨らんで天井が高くなってしまった為に定位置では背丈が足りず魂柱がすぐ倒れてしまう。そこで緊急処置として魂柱を立てる前に駒を立てて弦を軽く張り、それで表板を押し下げながら魂柱を立ててやった。それから4ヶ月程して、一度に弦が二本切れた。その為に又魂柱が自然に倒れてしまった。事態はもっと進んでいるようだ。

これを機会に魂柱を長いものに取り替えようと思い立ったのだが、修理工房に送ると魂柱立て代金の何倍も楽器梱包代と往復運賃が掛かるのを考えるとわずかこれだけの修理では腰が上がらない。さりとて自分で新品魂柱を削る方法は知らない。

思うに魂柱を表からでも表面板に鉛直に仮立てする方法があれば目視しながら魂柱の頭を表面板なりに斜めに削る作業が出来る。表板のカーブはその部分の裏カーブと同じと考える事が出来るだろう。ではどうやって鉛直に突き当てる事が出来るか?職人さんは何か道具を使うのだろうか、それとも直感作業か?

あれこれ考えているうちに奇想天外な方法を思いついた。魂柱継ぎ足し!。こんなお馬鹿な事を考え、実行する人は他に居ないだろう。しかし、自信のない魂柱の斜め削りをしなくて済むから、次回修理工房に入れるまでのつなぎにやってみるか。寸足らずの魂柱を使い続けるのは楽器に悪影響を及ぼすので後ろから押される思いで取りかかった。

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まずどれくらい寸法不足になっているかを知らねばならない。隙間ゲージをDIY店に買いに行ったが、見ると手の届かない楽器の腹の中で使えるような代物ではないので買わなかった。そのDIY店のカットコーナーに合板の切れ端が捨ててあるのに目を付け、色々な厚みの切れ端を無料で貰って帰った。その各合板に木綿糸をつけてF孔から垂らし込み、それを下敷きにして魂柱を立ててみると5ミリ厚が良さそう。勿論合板を継ぎ足しに使うつもりはない、不足寸法の確認に使うだけだ。継ぎ足す材料は常識的に魂柱を使う事にした。我が家には木製エンドピンを作る際楽器工房から貰った、使い古しの魂柱が何本かある。前述のように愛器はフラットバックなので魂柱の足元だけは技術要らずで真っ直ぐ切ればよい。所で現用魂柱の足元切断面はどうやらフラットではないようなのでついでにそれも訂正したい。

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ではどのように作業を進めたかをご説明する。

1) 物差しをコピーしてその紙を切り取る。
コントラバス魂柱の継足し1

2)現在の魂柱の足元を0位置に合わせて物差しコピー紙をスプレー糊で貼り付ける。
コントラバス魂柱の継足し2

3) 厚みの解っている合板を下に敷いてから定位置に魂柱を立てて、継ぎ足す長さを推量する。
コントラバス魂柱の継足し3

4)物差しコピー紙を貼り付けたまま、足元を随意位置で建具屋さんの木工旋盤によって真っ直ぐ切断して貰う。切断面もきれい。
5)同時に継ぎ足す方の魂柱も真っ直ぐ切断して貰う。その切断長さは適当でよい。
6)真っ直ぐ切断した両断面を貼り合わせて長目の魂柱を作る。後で剥がすことがないから接着剤はニカワでなくとも構わない。寸法を誤ってしまってやりかえる時はもう一度魂柱を切断するまでだ。
コントラバス魂柱の継足し4

7) 今回の例では元の魂柱よりは5ミリ長くしたいので第一の物差しコピーより5ミリずらせた第二の物差しコピー紙を貼り付ける。すると3)で行った切断の面がどこであってもその紙の”0位置”は元の魂柱の5ミリ先になるから、後は何も考えずに第二のコピー紙の0位置で切るだけ。
コントラバス魂柱の継足し5

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継ぎ足し部分や足元切断面を正確に水平に切る為に色々な道具を使って試してみたが、これには大型木工旋盤が信頼性ベストと判断して建具屋さんの門を叩いた。腕はあるが事情の解らない職人さんに説明するのは大変だが、貼り付けたコピー紙の物差し0位置で正確に切って欲しい、という依頼なら大変解りやすい。二つ返事で切ってくれた。その魂柱を差し込んで立ててみるとこれまでと違って楽器の裏板で実に安定して自立する。思わずニヤリとなった。この手順による作業の良い所は継ぎ足し長さが仮に0.5ミリ以下という微妙な長さでも困難でないこと、少しくらい目が悪くても寸法取りが楽に出来る事だろうか。そして熟練職人のナイフさばきは不要、実に簡単に正確に事は運んだ。

このようにして作った魂柱を取り付けるのに前の小文でご紹介した道具類をフルに使ったのは言うまでもない。

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こんな不埒な魂柱なのに微妙に位置調整をしてやったらそこそこに良く鳴る。私の心の”願望”のせいだけか知らん。

2004/1/30

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