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トップページ>奥田治義の世界>このページ僕の野田メトーデ by Haruyoshi Okuda
序文 2002/2/16 管理人;みーさん奥田治義氏は”音楽そしてコントラバス”開設以来 掲示板書き込みを継続的にされ,私とのやり取りは次第に奏法に関する細かいものとなっていったが,それを通じて氏が世のバシストに伝えたい事を沢山お持ちである事を感じ,掲示板での断片的な文で終わらせることなく,まとまった文章をこのHPで執筆して頂けないだろうかとお願いした. 氏は快く引き受けられて豊かな感性とご経験に基づく”私とコントラバス”の連載が始まった. 一年が経ち 論文も既に14編となって,これだけでも十分に濃い内容のHPとして通用するものに成長した.そこでこれらを一般的なHPの形に仕立て直せばコンテンツも奥田氏ご自身の裁量で加えることが出来る. 奥田氏はこの提案を受け入れて,HPの体裁をほヾ整えた新”奥田治義の世界”が発足し,中心となる論文”私とコントラバス”は”僕の野田メソード”と衣を替えた. 奥田氏は師と仰ぐフランクフルト歌劇場管弦楽団第一首席コントラバス奏者にして”野田メソード”の創始者,野田一郎氏の奏法に強い影響を受けており,奏法解説論文は野田氏のご理解と監修の下に世に出されている.続いて今回の企図を快諾下さった野田一郎氏に謝意を表するとともに,新しい”奥田治義の世界”の船出を閲覧者と共にお祝い申し上げる. 目次1 寄稿にあたって 1 寄稿にあたってこの度,当HP”音楽そしてコントラバス”を主催されている,三好俊典氏から”奥田さんのコントラバス奏法を私のHP上で掲載してみませんか.”という依頼を受けた.当HPの掲示板に度々,しかも恥ずかしげも無くコントラバスに関する投稿を続けていたお陰である. この依頼に私はお応えすることにした.というのも,昨年あるプロ/コントラバス奏者の方のHPに触発されて始めた奏法を(注1),少しでも世に紹介したいと思ったからだ.このプロ/コントラバス奏者とは,ドイツ/フランクフルト歌劇場管弦楽団,第1首席コントラバス奏者の野田一郎氏である.
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氏はそのキャリアをジャーマンボウで始められ,数々の華々しい実績を挙げてこられた奏者である.私の手元には日本のコントラバス奏法において非常にオーソドックスなスタイルである,ジャーマンボウ/立奏で演奏された氏のCD(注2)があるが,それは本当に素晴らしい音楽である.私は昨年入手したこのCDを聴いて,改めて氏の提唱されている奏法に衝撃を受けた. 現在,氏は弓をフレンチボウに改め,従来の立奏から画期的な座奏(普通の椅子に座って演奏する)に変えられている.あれほどの素晴らしい高みに達しておられる方が,プロ奏者としての安定した演奏活動を失うかもしれないリスクを犯しながら,自身の奏法を一転させる決意と向上心.私に衝撃を覚えさせたのは,野田氏のその姿勢だった.その奏法の大転換は氏によると,約10年前に始められ,様々な試行錯誤の結果,現在の形に辿り着いたそうである.
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私はその時点では,野田氏の転向後の演奏に実際には触れていなかった.しかし,氏のジャーマンボウ/立奏による演奏の素晴らしさと,その後の氏の動向を伺い知るにつれ,野田氏の提唱される奏法が,必ずや私の音楽に福音をもたらすものと確信した. その確信は,現在にいたってもいささかの揺るぎも無い.これからの私の拙文を通して,私が野田氏から触発され始め,私の中で消化され変化したもの,そして当然未消化なまま残っているものも合わせて紹介したいと思う.
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今回,寛大にも私に発表の機会を与えて下さった当HP主催の三好俊典氏にまずお礼を申し上げたい.また,今回の企画について,引用が多くなることも構わない,さらに私自身の解釈等も明らかにしてよろしいと,快くご了解下さった野田一郎氏には絶大な信頼と親愛,そして尊敬を込めて心からお礼を申し上げる.
(注1,2)いずれも野田一郎氏のHPを参照のこと.また,本文中には野田一郎氏の奏法がほとんどそのまま紹介されている.これらの奏法についての詳しい解説は,野田一郎氏のHPを参照されたい. 2 私の音楽にとって大切なもの私は音楽にとって大切な要素として,次の4点を常に心がけている. 1:メロディ 2:リズム 3:ハーモニー 4:トーン の4点である.
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1〜3については言うまでもないだろう.故に私にとって1番重要な要素は4のトーンであると言うことも可能だろう.トーンとは音色であり,ニュアンスである.私はその音色/ニュアンスにこそ,その音楽家の良心が顕れると考えている. なぜそう考えるようになったのか,それをお話しする前に///.実は私はコントラバスを弾き始めて3年程しか経っていない.そんな私がなぜこのようにコントラバスにのめり込んで行ったのかをお話しするには,私の音楽キャリアからお話ししなければならない.
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私は高校生になって間もなくエレクトリック/ベースを弾き始めた.いわゆるロック/バンドを結成し,そこが私の音楽の原風景になっている.しばらくして,衝動的に指板のフレットを抜いてフレットレスにしてしまった.以来24年間,フレット付きの楽器は遊び以外では弾いていない. フレットレスのベースを弾き始めて1年後,ジャコ/パストリアス(注1)というベーシストに出会った.衝撃だった.彼の両手から弾き出される素晴らしいパッセージの数々.私は昼夜の区別無く,その後の6年間を過ごした.勿論形から入った.所謂物真似である. ある雑誌で彼の楽器の弦高が驚異的に低いことを知ると,当然自分の楽器も同様に調整した.しかし弦高が低すぎて音が出ない.少し弾くと弦がすぐに指板に当たってしまう.弦高を上げるが,なんだかジャコから離れる気がして悔しかった.そこで限られた写真等を手がかりに,ビビらない弾き方を工夫した. すると鳴るのである.ジャコと同じ音,音色が. ジャコはコントラバスで言うところの,駒のすぐ側でピッキング(ピチカート)する.しかも指の掛かりは浅い.音量のコントロールは指を振りぬくスピードを変化させることによって得る.このことに気が付いてから,その楽器の調整とともに,左右の手の負担が激減し,なおかつ力(腕力)を必要としなくなった. そうすると技術的な問題の半分は解消され,使わなくなったエネルギーを表現に使えるようになった.
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それから随分後,あるお店のセッションで共演者から苦情を貰った.”奥田君の音が全然聞こえない!”ショックを受けた私は,演奏後お店の店主やお客様に聞いてまわった.彼らは皆こう言った.”いや,良く聴こえて楽しかったよ!” 私は確信した.”優れたトーンは遠達性に富み,離れた場所でも他の楽器に埋もれることなく,観客にニュアンスを伝える.” これは,ジャコをコピーする過程で,弦楽器に対する基本的なアプローチを身に付けていたことを物語るエピソードだと思う.
3 コントラバスとの出会いさて,私がコントラバスを弾き始めて3年ほどの初学者であることは既に述べた通りだが,それまで演奏してきたエレクトリック/ベースにおける試行錯誤が,コントラバスの奏法の理解に大きく役立ったことはまぎれもない事実である.
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特にトーンの大切さを理解していたことは,非常に大きい財産となった.一般にエレクトリック楽器への理解は,電気的に増幅するというイメージであろう.しかしエレクトリック楽器にとっても,弦の振動がブリッジに伝わり,ボディ/ネック等楽器の隅々にまで万遍なく振動が行き渡り,それが楽器固有のトーンになるという弦楽器にとって当たり前のことが,大変大きい要素であることはあまり知られていない. そのため,いかに弦の振動をスムーズに効率良く引き起こしそれをコントロールし,楽器を振動させるかについての考察は,奏者の側ではほとんど行われていない.(勿論エレクトリックの分野においても,優れた楽器製作者はそのことを充分に考えている.)(注1)そして,この弦の振動をコントロールする概念を私は長年追及して来ていた.このことがコントラバスの習得に非常に大きな役割を果たすことになった. ところでフレットレスベースの持つ独特のニュアンスは,コントラバスのそれに共通したものがあり,フレットレス/ベースを弾き込むうちに私の中にコントラバスに対する憧れにも似た情熱が芽生えて来たのは,私にとって自然な進み行きだった.
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コントラバスの習得にはまず,きちんと確立されたメソッドによる教育を受けることが重要であることは,人づてに聞き及んでいたので,友人の音楽大学の助教授にお願いして,私のようなレイトスターターにもレッスンをして下さる教師を探してもらった.そこで紹介されたのが現広島交響楽団のI先生であった.先生のレッスンの条件は実に寛大なものだった.”自前の楽器と弓を持つこと.”これだけだった.弓は何故か手元にあったので(入門後すぐさま買い換えることになり,分不相応に上等な弓を購入.),先生のご紹介で早速楽器を購入しレッスンに赴いた. 先生は伝統的なジャーマンスタイルの教師として,優れた実績を残されている方で,その門下生は非常にしっかりとした演奏をする優秀な奏者ばかりである.当時のスタイルは当然ながらジャーマンボウに立奏,弦はスティール,松脂はカールソンであった. 私にとって1番の問題は右手のコントロールだった.楽器を鳴らすことは出来るのだが,重さを掛けることと腕からの運動がうまく両立出来なかった.さらにレッスンが進むと左手にも問題が生じた. ハイポジションの学習が進むに連れ,ローポジションから移動する場合,その不連続な運動形態のために音楽の流れが妨げられることに気が付いた.
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私は37歳からコントラバスを始めたため,上達のために残された時間は僅かである.普通は様々な障害も時間をかけてじっくり取り組めば,乗り越えることが出来ることは十分承知していたが,私にはその時間がなかった. また身体的にも腰に爆弾を抱える私は,レッスンの度,当時入団したオーケストラの練習の度に腰痛との闘いだったし,なによりエネルギーを無駄に使って,音楽表現が疎かになることがいやだった.
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そんな時,あるメーリング/リストで野田氏の奏法に接する機会を得たのだ. (注1)アメリカ/ニューヨークのフォデラ工房はその楽器製作において,非常に優秀にして頑固である.特にエレクトリック/ベース製作については天才的なものがある.フォデラ兄弟の工房から生み出される楽器は,いずれも素晴らしいトーンと操作性,そして上等な工芸品のような芸術性を持っている.フォデラ兄弟はイタリア人.コントラバスの名器がイタリア製に多いことを考えると興味深い一致である. 4 最初に取り入れた奏法”座奏”インターネットに接続しているコントラバス奏者であれば,そのメーリングリストはご存知であろう.”InternetSosietyof Bassist Japan”=通称ISBJである.このメーリングリストのメンバーでもある野田一郎氏の 奏法に,やり取りされるメールを通じて触れることで私の奏法も変化して行った. 野田氏の提唱される奏法は大きくまとめると次の4点,すなわち,
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私がまず取り組んだのは座奏だった.当時の問題点に左手の運指上の問題と,腰の負担が大きいことがあったことはすでに述べた通りである.私にはそのメーリングリストでやり取りされる野田氏の奏法が,この2点の問題を解消してくれるものに思えた. そこで,まず折り畳み式の椅子(折り畳みの角度によって座面の高さを調節できる物)を購入し,立奏を止め,座奏に変更した.この高さを調節出来る機能は後に,自分にあった高さを見つけるのに非常に役立つことになる.
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ところで,私は立奏時の親指の役割には大きく分けて3つあると考えていて,それは ところが座奏を取り入れることによって,1と2にかかる親指の負担が解消される. 伝統的な立奏の場合,肩,肘の関節と,ネックに交わる腕の角度をそれぞれ直角に保持し,その角度を保つことによって得られる力で押弦する.この時もっとも負担がかかるのは親指である.よって立奏では,シフティングを伴う運動の場合,一度親指の力を抜き,シフティングし,改めて親指に力を加えて押弦する.また,特にハイポジションにシフティングする場合には,親指による楽器の支持を解き,今度は身体で楽器を支持し直すことになる. 立奏の時は気がつかなかったが,座奏をするようになってからこの親指にかかる負担と,楽器を支持するための動作の変更が,演奏上の妨げの原因になっていることに気がついた. 現在の私の奏法では,押弦時とシフティング時の親指にかかる力がほとんど変わらず,ともに微弱な力しか加わっていないので,たまに立って演奏すると,全くの初心者のそれと同じように,たちまち親指が痛くなってしまう.
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このことに気がつくと,当初は普通のバス椅子よりも少し低い程度であった椅子の高さはどんどん低くなって行った.当然楽器と床の交わる角度は小さくなり,楽器は大きく寝ることになる.そうすると,ネックと腕の交わる角度は直角に近づいてくる.また,腕がネックから自然にぶら下がるようにセットすることによって,床面と腕の角度が垂直になる. このことによって,親指は押弦にかかる不要な負荷から完全に開放された.座面を低くすることはつまり,腕の重さをより有効に利用して押弦することに直結する.
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では,楽器の支持はいかにして行っているかと言うと,まず両足はともに床にベッタリと着地させる.そして左足膝部を楽器裏板の任意の場所に当てる.(注1) 右足は楽器の裏板と側板の接合部に当て,楽器の後ろから見て右肩あたりが右胸に来るように構える. このことにより,楽器は左手の力を全く借りずに支持出来る.このように親指が押弦及び楽器の支持から開放されるためにその自由度が増し,ポジションの確認作業が楽に出来るようになったため,音程の精度が高まった.またビブラートも意図したビブラートが自由に行えるので,表現の幅も広がった.
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しかし,座奏の利点はこれらに留まらないことに気がつくには,もう少し時間がかかった.(注2)
(注2) 当然右手にも大きく影響するが,右手にかかわる利点はフレンチボウのところで詳しく述べる.
5”座奏”のもう一つの本質座奏に取り組んでしばらくは,その楽な演奏姿勢(腰への負担の軽減,左手親指の自由度の向上など)に関心が向かっていたが,座奏のもう一つの本質とも言える優れた点に気がついてからは,より音楽的に意識出来るようになった. 野田氏の言葉を借りるならば,左膝を使った”裏板ブレーキ”と表現される働きである.この”裏板ブレーキ”を理解し,表現に取り入れるためには,楽器の構造の理解抜きにはこれを取り入れることは出来ない. コントラバスの習得において,教師から良く言われることの一つに”楽器を鳴らす”ということがある.この”楽器を鳴らす”あるいは”鳴っている”状態というのは,いわゆる楽音が発生している状態を指し,一般的には弦の振動が,やがて(といってもそのタイム/ラグは極僅かであるが)楽器全体に振動が行き渡った状態を指す. ところが野田氏はこの一連の振動伝達運動の中でも重要な役割を果たすであろう,裏板の振動を抑制すると提唱されている. なぜか? ここで,弦楽器における振動伝達運動を考えてみたい.まず弦を弓で擦ることから振動は始まる.次いでその振動は駒から表板に伝わり,表板内側にあるバス/バーを経由して表板全体に広がる.同時に駒の振動は表板を挟んで少しズレた位置にある魂柱に伝わる.そして魂柱はテコの原理で上下運動を始める.この上下運動が裏板を振動させる. この時左膝を当てることによって楽器裏板にどのような作用を及ぼすか.実はこの左膝が,表板における駒の役割を果たし,魂柱の存在とともにその存在理由は逆になるが,裏板でもテコの原理が働くのである.テコの原理は皆さんおわかりであろう.支点/力点/作用点の働きである.表板における力点は駒,支点が魂柱,作用点が表板全体である.そして裏板における力点は魂柱,支点が左膝,作用点が裏板全体である. この時,左膝を当てていない状態を考えると裏板はただ上下に動くだけで,裏板全体に伝わる運動効率は悪いものであろう.遊具のシーソーを想像して頂きたい.もしシーソーの板が柔らかい素材で出来ていたら,反対側は効率良く上下するだろうか?つまり左膝を当てることによって裏板の遊びが減少し,魂柱の微弱な振動でもテコの働きによって速やかに,効率良く裏板全体に広がるのである. さらに裏板で発生した振動は再び魂柱から表板,駒に伝わり,改めて弦の振動を助ける働きをする.この一連の振動伝達運動が終わり,あるいは継続して楽音が発生する.(注1) この左膝による裏板の振動抑制は,小さなエネルギーで素早く楽器を振動させ,効率良く楽音を発生させる働きをする.(注2) 左膝で裏板の振動を抑制するということは,一面では裏板をミュートすることになる.ところが,裏板をミュートするすることによって(裏板の遊びを少なくしてやることによって),(ただ上下運動するだけの)不必要な裏板の振動を抑制し(あるいは防ぎ),無駄な動きが無いだけ,輪郭のはっきりしたニュアンス豊かなトーンの発生を実現させることになるのである. これは表面積の大きいコントラバスだからこそ,より効果が大きいと言えるであろう.ただ,楽器のそばではミュートの効果により,音量的には下がってしまうように錯覚することも事実である. ここで思い出して頂きたいのは,私の音楽にとって重要な要素にトーンの存在があるということである.”優れたトーンは遠達性に富み,離れた場所でも他の楽器に埋もれることなく,観客にニュアンスを伝える.”この私の経験則が重要な役割を果たす.つまり,実際には音量の問題は優れたトーンの発生により,すでにクリアされているのである.
(注2) 効率の良い楽音の発生についてはまた別掲で改めて述べる.
6 オイドクサ私が座奏に取り組んで半年が過ぎたころ,それまでのスティール弦からピラストロ社の”オイドクサ”という弦に変更した.”オイドクサ”は素晴らしい性能を備えた弦で,私はそれまでのコントラバスの音色に対する概念を一変せざるを得なかった.以下に私が感じる”オイドクサ”の特徴と,それに伴う長所/短所を述べる.
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1:天然ガット 2:銀平帯巻き 3:素早い立ち上がりと程よいサスティーン 4:素晴らしいトーン 5:デリケートな品質
(注3) 脱力に関してもまた別項で述べる. (注4) 勿論,スティール弦のサスティーンを必要とする奏者が存在することは当然である.大切なことはその奏者がその弦を選択する際に,音色を含めてどのような価値観を持っていて,それをいかに音楽表現に取り入れるかである. (注5) 欠点については次項参照のこと. 7 それでもオイドクサは素晴らしいでは,”オイドクサ”に欠点はないのであろうか.前項でも触れたが,デリケートな品質はやはり,奏者の側に一定の負担を追わせることになる.ここでは私が感じる”オイドクサ”の問題点に触れてみる.
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1:高価格 ”オイドクサ”はその使用素材と製造工程,需給のバランスなどから,特に日本においては価格が非常に高い. 2:湿度,温度の変化に弱い 天然ガットを使用しているため,湿度/温度の変化を受けやすく,調弦が狂いやすい.特に湿度変化には敏感で,私の経験では,一晩で1全音以上高くなる場合もある.(注1) 3:使用素材が脆い 天然ガットと銀平帯巻きは素材としての強度が低く,巻き線の崩れ,芯線の断線などの危険が伴う.また,表面の銀平帯巻きは酸化しやすく,手入れを怠るとたちまち変色をきたす.(ただし,音色には影響しない.) 4:強い圧力では音にならない 特にオーケストラなどの大音量の中で演奏する場合,奏者は自身の音を聴きたいが為に,つい必要以上に圧力を強くかけてしまいがちである.”オイドクサ”は強い圧力をかけると,たちまち音色が汚くなってしまう.しかしこれについては,同時に長所であるとも言える.(注2)
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これらの欠点を持つ”オイドクサ”であるが,特に断線などの問題は奏者にとって深刻な問題である.私は次の点に考慮して扱っている. / 弦高は極力低くする.(ちなみに私はG線の指板の端で4mmほど.)
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価格の問題以外は,奏者の側でこのようにすることで大抵防げる.私は過去に一度だけH線の断線に見まわれたことがあるが,これは移動先の湿度変化を考えずに,チューニングを落とすのを忘れていたためで,いわゆる”うっかりミス”であった. このように大変手間のかかる”オイドクサ”だが,私は今後他の弦に変更するつもりは全く無い.私にとって”オイドクサ”は今後に述べる”フレンチボウ”とともに,私の奏法の中心をなす要素だからであり,これらの犠牲を払っても尚,充分な音楽的クオリティを私に与えてくれるからだ. (注1)一方でスティール弦は温度変化に弱い.線路のレールが真夏にグニャリと曲がることがある.それと同じ理由による. (注2)音量の問題については別項で提言する. (注3)一般的な指板の調整は,指板に定規を当てた場合,サドル(上駒)からネックとボディの接合点あたりを頂点とした,カーブを描いた隙間(反り)が出来るように調整するが,野田氏や私のように弦高を下げる場合は,サドルから指板の端まで,この隙間がなるべく出来ないように調整する方が望ましい.しかし,このような調整を施した楽器においては,奏法の変化が伴わないと実際には演奏不能になってしまう場合がある. 8弦の”伸縮振動”とフレンチボウの”機械的特長”ではこれからフレンチボウの実際について記述していくわけだが,その前に弦の振る舞いと,フレンチボウの構造について,私の理解を書いておこう. この二つのことを理解していると,フレンチボウの習得に対する理解が深まると思う.
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2種類の”伸縮振動” まず単純な伸び縮みに関する振動であるが,一般的な弦の振動に関する理解は,”横振動”として捉えられているが,弦が横に振動するためにはまず,弦が伸びなければ弦はピクリとも動かないはずである.弦が伸びて,初めて横に振れるのである.ゆえに,弦の長さ方向に最初の振動を起こしてやることによって,小さな力で素早い立ち上がりが実現される. また,もう一つの”伸縮振動”は立ち上がり時のみ発生するのではなく,弦が振動する際には必ず起こっていて,常にその振動を駒に伝えている.これが”ヘルムホルツ波”である.”ヘルムホルツ波”については安藤由典著”新版 楽器の音響学”(音楽之友社)に詳しい説明があるので,是非お読みいただきたい.(注1) ここでは極く簡単に述べるに留めるが,弦の振動は一見するとただ横に振れているように見える.しかし実際は弦上に”く”の字を寝かせた形の波が発生し,回転しながら(注2)弦長方向に上下に移動しているのである.そしてこの”ヘルムホルツ波”の動きを意識し助けるようなボウイングを行うことによって,最初の振動増幅装置である駒の振動が効率良く伝わるのである.
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”フレンチボウの機械的特長” ジャーマンボウでは弓先と弓元の毛と竿の間隔が著しく違い,チップも軽いため,弓元では重さを掛けやすいが,先に行くに従ってより大きな力が必要である.さらに第2の機械的特徴として,ジャーマンボウが手のひら全体を使って包み込むように持つのに対して,指を使って持つフレンチボウでは,ジャーマンボウに比べて肩から弓の毛までの距離をより長く取れる.よって,ジャーマンボウで演奏する場合に比べて,より駒寄りに弓毛と弦とが接する点(サウンディング/ポイント)(注4)を,姿勢を不自然に変えることなく捉えることが出来る. その結果,フレンチボウではより広い範囲でのサウンディング/ポイントの選択が容易に行え,音色の選択範囲の拡大や,駒寄りで演奏することにより,楽に楽器を振動させることに寄与する.そしてこのことによって,音楽表現の幅が広がり,また楽しく行える. また,この持ち方の違いは,弓を扱うバネとしての,関節の数の違いにもなっており,ジャーマンボウではほぼ親指だけがバネの働きをするのに対して,フレンチボウでは手首,指の全ての関節がフレキシブルに使用出来る.それだけ弓が弦に追従しやすくなる. このように,均一な力で演奏全体を行えるという点と,サウンディング/ポイントの選択範囲が広いという点,さらに弓を弦に追従させる機能が優れている点を,フレンチボウが機械的特色として備えていることが,余分な力を加えることなく,座奏/オイドクサ/サルコウの松脂とともに音楽表現を楽しく,楽にしてくれるのである. また,余談だが,フレンチボウは楽器として非常に素晴らしい文化を持っている.フレンチボウの世界では,オールドの弓が現在でも比較的多く流通している.このようなことはジャーマンボウの世界では中々難しいことである.
(2)この回転しながら伝わる振動はつまり,駒は伸縮振動と相まって,前後上下左右に動くことを示している.野田式座奏ではその中でも特に伸縮振動に着目し,演奏技術に取り入れるよう意識する.これは駒が一枚の板であり,横や上下に動くよりも,前後の方向(伸縮振動と同じ方向)に動きやすいからである. (注3)フレンチボウ習得の初期の段階では,腕を弓の反りの円に沿った運動をさせることが有効であるが,ある程度慣れて来たら,腕は平行移動させるようにする.もっとも例外もあり,2弦間での細かい移弦(例えば低音弦をダウン,隣の高音弦をアップで,スピッカートにより演奏する場合など)では円に沿った運動が要求されることもある. (注4)”サウンディング/ポイント”:ここでは弦と弓毛が交わる点のこと.野田氏の提唱される”サウンディングポイント”にはさらに,発音に関わる重要な運動のメカニズム,及びそのトレーニングまで含まれる. 9”私のフレンチボウ奏法”これから私の弓の持ち方,構え方などについて述べて行くわけだが,下記の点に注意して読み進めて欲しい.
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/関節の呼び方:以下,指先から第1,第2と数える.
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持ち方 1:どこを持つのか 2:親指 3:その他の4指
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構え方 2:肩,腕,手首 3:弓毛を寝かせる
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弾き方 2:なぜ斜めか. この弦長方向への力を最初に加えることによって,素早い”伸縮振動”の発生を助ける.ただ弦を横に引っ張るだけでは,この”伸縮振動”の発生に一瞬の遅れが生じてしまい,素早い立ち上がりには寄与しない.さらに,駒の運動を考えた場合前項で述べたように,上下/左右の運動よりも,前後(弦長方向)の運動の方が起こりやすく,楽器の鳴り(弦の鳴りではなく,楽器全体,特に裏板の鳴りが重要である.”座奏のもう一つの本質”参照)に有効である. 実は著名な擦弦楽器奏者でも多くの方が,無意識にこの”斜め弾き”を行っている.なぜなら,そのほうが”良い音”がするからである. 注1 この弓毛を寝かせる効果は,松脂の項にも関連するので,後述する. 10”ウィリアム/サルコウ/ライト”という松脂(1)読者の皆さんは松脂を選ぶ際に,何を基準にされているだろうか. /引っ掛かりの良さ /音色の良さ /柔らかい /硬い /値段 など,そこには幾つかの理由があるであろう.一般的にコントラバスの松脂には他の擦弦楽器の松脂に比べて,粘性の高い柔らかいものが好んで用いられている.主な理由としては,コントラバスの重くて太く長い弦を弾くには,粘性が低くさらさらとした松脂では十分な引っ掛かりが得られないということがある.これまで座奏,オイドクサ,フレンチボウについて述べてきたが,実はこれらを用いた野田メソードを支えるものに”ウィリアム/サルコウ/ライト”(以下サルコウ)の松脂がある. サルコウの特色はサラサラで粘性が低く,きめが非常に細かいというところにあり,従来のコントラバス用の松脂が持つ高い粘性は求めるべくも無い.実はこのサルコウという松脂はバイオリン用の松脂で,野田氏をはじめ野田メソードの実践者は,その中でも”ライト”というさらに硬いものを使用している.何故,従来のコントラバス奏法からすると,使いづらいとされる松脂をわざわざ使用しているのか?理由としては下記の4点,すなわち 1:発音が素直で早い ではここで松脂の弦の運動への影響を考察しながら,サルコウの優れた特性を2回に分けて紹介しよう.
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1:発音が素直で早い 一般に使用されるコントラバス用の松脂は油分が多く調合されており,そのため粘性が高い.この粘性の高さは,松脂が弦に引っ掛かり,松脂の粘性が弦の張力に負けて,弦が弓毛から解放されるまでの時間が長くかかってしまう.つまり大げさな言い方をするならば,いつまでも弦の張力に松脂の粘性が負けないという言い方が出来る.これが粘性の高い(引っ掛かりの良い)松脂の弊害である.コントラバスはその大きさゆえに,弦から始まった振動が楽器全体に行き渡るのに時間がかかる楽器である.その上,その振動の最初の運動まで遅くなるこのコントラバス用松脂の特性は,さらに発音を鈍く,遅くしていると言わざるを得ない. ところがサルコウは含まれる油分が少なく,きめ細かいため,弦が弓毛から解放される時間が早い.ゆえに松脂の特性に捕らわれる事無く,素早く素直な発音が可能となる.このことはオーケストラ等,アンサンブルの中で演奏する際に非常に有利である.発音が早いので,テンポ/リズムの点で演奏しやすくなるためである.
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2:松脂の音がしない(弦/楽器が本来持っている音色の邪魔をしない) この基音だけをコントロールして音量を増して行く練習によって得られた音は,遠達性に富み,遠く離れた場所でもそのニュアンスや表情を失わない(仮に今発している音量がpやppでも同じである).ところが子音まで一緒に大きくなる従来の松脂では子音がノイズとなるので音色が濁り,遠くまで奏者の意図するニュアンスを届けるのを邪魔してしまっている.
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このように従来のコントラバス用の松脂とは全く違った特性を持つ”サルコウ”であるが,次項では弦の振る舞い(伸縮振動)とオイドクサとの関連,及び弓との関連について述べて見よう. |
