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トップページ>工房>コントラバス奏者の工作室>このページコントラバスエンドピン考 各論総論で考えたことをどのように具体化したか,のご説明を以下に述べる.この小文を単独で読まず,前編の”エンドピン考 総論”と関連付けて読んで頂ければ幸いである. このアイデアの元になったのは当HP内の”奥田治義の世界”に収納されている奥田氏の論文.もしこの論文がなかったら私の心に何の変化も起こらなかっただろう.ここに奥田治義氏に感謝申し上げたい. この小さいエンドピンレストにエンドピン先を命中させる為には,ある程度のピン長が視認のために必要となる.その長さはボディの最下部からピン先までおよそ19センチ.これは足をステージ床に直接下ろして弾く私独特の座奏フォームとも切り離せない長さである.ちなみにチェロと同じように足を床に下ろす安心感/安定感からはもう後戻り出来ない. なお,バス椅子,エンドピンレストはともに同じ”バシストの為の工作コーナー”の別小文で詳述している. 目次に戻る 材質は基本的に接合面同士の馴染みが良い木材の中から選ぶのが適当と思われるし,その接合構造は接触面積が大きく,従って差し込めば確実に連結される特徴を持つテーパー(先細り)方式が最良と思われる.この特徴を十分に生かすためにテーパー勾配(先細り加減)はごくゆるやかにする.一方音質の観点から判断しても木に勝るものは考えにくい.バイオリンやコントラバスなど弦楽器を木で作るのは至極当たり前な事だ.しかし部品はそのコンセプトがあいまいになっている.初めて金属製伸縮式エンドピンを考えた人は”小さい部品だから金属を使っても左程は音に影響しないだろう,それよりも機能を重要視するのが使う側への親切だ”と判断したのではないだろうか.それが奏者に受け入れられ,やがて”常識”になったのだろう. 一般に小さい事でも積み重ねれば結果を大きく左右する.ここでもそれは当てはまる.既成の”常識”にこだわらず,小さい部品類であっても楽器本体の製作と同じレベルで考え直してみたい.即ち何故木を使わないのか?なぜ接合部分を力学的にあいまいにするのか?と問うて見るのだ.その問いへの一つの回答がこのたびの試み. 具体的な製作に当たっては差込みされる楽器側の穴はもともとテーパーになっているのでそれに合わせて差込口も木工旋盤で削る.材は”のぐるめ”.接合部をなじませる為にサンドペーパーなどで仕上げればそれだけ楽器の中に入り込んで行くので設計に”ゆとり長さ”が必要である. この差込口の最大の特徴はエンドピン受け穴側も同じくテーパーで作るところ.このような設計を他に知らない.大げさに言えば企業秘密の箇所である.これによってエンドピンは音響的にも確実に差込口と一体化する.計算上この差込口とエンドピンは最大45平方センチ接触していて力学的にも安定している.しっかり差し込めば簡単には抜き取れない.なお,この穴はリーマーという道具を使ってテーパー状に仕上げるのだが,このようにテーパー勾配が極端に緩い仕上げをしようと思えば,DIY店に行ってもそれに使えるリーマーは売っていない.笛を作る工房などの楽器工房,あるいは楽器製作用の道具を扱っている店ならあるのではないか.さもなくば自作だ. 総論で述べたような”十本の指全てをつかって握る”イメージを実現するには他に電動ドリルで使われているコレットチャック方式があるが,テーパー方式が単純であるだけ有利である.実は当初はコレットチャック式で検討し,途中でそれを放棄してテーパー方式を採用した.テーパー方式の欠点は奥の方で隙間があっても如何にもしっかり接合したような手答えがあって騙されてしまうこと.何度か強く抜き差しして接触跡を確認する.てかりがある所がきつく当たっている部分,変化がない場所はあたりがないか十分に接触していない.それを見分けながらサンドペーパーを掛けて修正してゆく. ■ エンドピン 楽器の高さを調整する役割は捨ててしまったので,演奏姿勢を試行錯誤している最中の奏者には向かないかも知れない.けれども”捨てて行くことにも意義がある””どんな催し物にも対応できる多目的ホールは結局使いづらい””万能ナイフも同じこと”などと”休憩室”内”私の住宅設計手法/新築編”で書いたが,(注;その小文はもうひとつのホームページ”木造注文住宅/ひまわりホームのページ”に2004年移設したのでここにはもうない)ピンも単純化すれば失うものはあるものの,それよりも収穫が大きい.機能であれ,デザインであれ,何にせよ目的に沿ってさえあれば単純化は最良の手法なのだ. 差込口の楽器側先端と同じように,差し込んで見て跡が付いたところをペーパー掛けして馴染ませ,それを何度か繰り返す.馴染ませればその分ピンは奥に入ってゆくので”ゆとり長さ”は同じように織り込んでおかなければならない.使う際にねじ込んで抜けなくなってしまう事も考えられるので画像にあるように”蝶ねじ”のような羽根をつけてやれば良い. ピンに使う樹種と石突きの形状については5種類の試作をした.第一作の取り掛かりから第五作完成に至るまで三ヶ月を要している. 第一作 けんぽ梨 試作品の画像:
第一作 けんぽ梨 第二作 ウォルナット
第四作 松 石突きは木部の加工中に気が変わってしまい,第四作の為に描いた設計図(下図)のような太さ4ミリの真鍮棒を使わずに木部の先端を和風欄干のギボシのように丸く削って見た.二重鉢巻はそれより先に設計図どおりに取り付けたので無意味なままで残っている.実は約2ヶ月間第二作を使っているうちにエンドピンレストが石突きで深くえぐれてしまうと言う問題が発生したのだ. それに対する反省から接触面積のやや大きいギボシにしてみたのだが,これで私のコンセプトはがらりと変わってしまった.もはや厳格で明確な一点での接触ではない.なお鉢巻は,たまたま手に入ったチタン製のパイプを輪切りにして使った. 第五作 桐 楽器から出てくる音は音量/倍音とも不満を感じない点は松と似ている.音量は松より大きいとさえ思われるし,それに加えて駒寄りで弾いても音がひっくりかえりにくい,という何故だか説明のつかない特徴がある.しかし家内はすこしぼんやりした音に聞こえる,と評した.ところで遠達力も気になるところ.練習室(客間)から廊下を介して食堂まで離れて(約10m余り)音を聞いて貰ったが,ぼんやりした印象を受けていた桐が何と一番減衰しないらしい.最初に連想した拍子木やクラベスとは似つかぬ頼りない素材の桐が良いとは,物事はやって見なければ解らないものだ. 目次に戻る 肝心な事を忘れていた.金属エンドピンと練り物の差込口の組み合わせのオリジナルピンシステムと私が作った木製ピンシステムとの音質比較をしなければレポートにならない.(ここではエンドピンと差込口のセットをエンドピンシステムと呼ぶ)弦を緩めてエンドピースを一旦外し,セットを購入時のものに付け替えて弾いてみた.印象としては金属もそんなに悪いと言う程ではない.しかし音量/倍音/遠達力のどれを取ってみても,松や桐で作られて楽器と一体化されたエンドピンシステムの味を一旦知った後では物足りないのだ.金属ピンの音は第二作のウォルナットあたりのグレードに感じる.その音のイメージを例えて見れば,背中を丸め,うつむいて歌う内気なシンガーと言えばお解かり頂けるだろうか.この”物足りない”思いは聴衆の立場に居る家内より奏者である私により強く感じられるようだ.受けた音の印象を家内に伝えると,家内は”なるほどね,解るわかる”とすぐさま賛成してくれた. 目次に戻る 結論作品(第五作発展形)の特徴をご紹介すると,第五作からの変更点は,本体の直径を2ミリ太くして20ミリとし,先端部には磨耗に備えて紫檀の石突きを埋め込んだ.これによって少しピントの甘い桐の音が若干でも引き締まってくれる副次効果を期待.埋め込む部分の紫檀はその軸を金属のように4ミリという細さに加工出来ないので倍の8ミリに設定し,それをかみ込ませる桐の先端部分は第五作のように二重の鉢巻で絞り込むことをせず一重にして直径は16ミリにとどめた. さて肝心の音はどうか.紫檀石突きの効果はあった.第五作の良さを引き継ぎながらも音の輪郭はよりはっきりする.しかし残念ながら松の中音域充実には及ばない.そこが二つとも手元に置きたい理由だ.ではなぜ桐を結論作品の材質に選んだのか,それは発音の大きさとその立ち上がりの良さによる.とは言え自宅の一室での響きだけでどちらかを選ぶのは危険,今後チャンスがあれば色々なホールで響きを確認して行きたい. いずれにしても新エンドピンシステムの路線は間違いではなかったようだ.もう金属に戻る事は考えられない.もし読者が愛器の更なる音量や輝かしい音色や遠達力を手に入れたいバシストなら新エンドピンシステム(エンドピンだけの交換ではなく)を試みては如何だろうか.楽器を買い替えるよりは手軽で安上がり.そして私の楽器の変わり方から判断すればどのような楽器に試しても効果はそれなりにはっきり現れて満足出来るものだと思われる.楽器運搬の際はピンだけを抜き取ってカバーのポケットに入れると良い.私は今後常にスペアピンも帯同するつもりだ. 前編の”エンドピン考総論”ではエンドピンの床への伝送特性に注目して,その改善を目指した.所が実際はステージに持ち出すまでもなく,自宅の分厚い絨毯の上なのにバスの音色がはっきり違って来た.と言うことは,伝送特性を考える以前の問題として,金属製エンドピンシステムはそもそも楽器に対して制振的に作用するものである,もしその言い方が正しくなければ,逆の視点からだが,しっかり楽器に固定された木製のエンドピンシステムは楽器そのものとして有効に働く,という事ではないだろうか.
■終わりに もし真であるならばその次に手掛けるべきは野田一郎氏,奥田治義氏が実行しておられるようにテールピースワイヤーのガット化であろう.通常ここは太い針金又は縒り線を使っているが,その金属質量は馬鹿にならない.私の次の目標にしよう.なお,その際には購入時についていた鋳物製のエンドピースを昨年末に木製に変えたばかりだが,その厚みのある裏側を少しばかり削ぎ取ってみたいと思っている.この判断はその形状を見た時の直感のようなものだ. そして最後は糸巻き.強い弦の張力に対抗させる為に金属部品は必要であるとしてもそれを最小限に止めて他は木を使うとすれば,木に変更出来る箇所は弦を巻き取る心棒であり,指が触れるネジの羽根である.糸倉両外側の化粧板は余計な飾り物ではないだろうか.ここもわずかの変更が大きな音質の改善に通じていないと誰が断言できようか. しかし糸巻きの実験は私の企画力を超えている.私の楽器を改造するには楽器に詳しい金工職人さんとも組まなければならないが,私にそのような知り合いはいない.誰かこのような事を試みる方はおられないだろうか. 差込口/エンドピンの設計 三好俊典 2003/2/23 考えはなかなかひとつところへ長くとどまるものではない.実はこの小文を発表後,野田一郎氏から思いがけないご発言を頂きエンドピンはステージ床に突き刺さず,むしろゴムボールか何かで浮かせた方がよい音がするとのアドバイスであった. 私はこれに戸惑い,長い間不審に思っていた.残念ながら私はこれを検証するためにホールを借り切ってさまざまな比較を試みるチャンスがないままに今に至っているが,本文でもちょっと触れた楽器を床に接着する際に起こり得る現象の延長線上で考えれば楽器がステージ床を動かそうと試みるのは蟷螂の斧であり,ステージ床を揺り動かそうとするよりその努力を楽器自身のより有効な振動に振り向けたほうが賢いという事か,と半ば得心しているのである.しかしこの事はエンドピンと差し込み口を小文に掲げたように作るメリットを否定するものでなく,それとは又別の判断であると信じる.2006年. |