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バス弾きの密かな愉しみ

前文

この”バス弾きの密かな愉しみ”シリーズは2000年8月末から友人のHPの掲示板を拝借して8回連載物に仕立ててUPしたものの再録である。読者を”これまで音楽に余り接していなかった人”と想定し、その人達に面白く読んでいただくためにテーマと文章を工夫してみた。

この小文集を書くきっかけは 平成11年10月に指を痛めて5ヶ月間楽器を弾けずその後更に病気をした事等で一年弱楽器が弾けなかったが、練習開始になかなかエンジンが掛らない。そこで自分を音楽的な雰囲気の中に置けば良いのではないかと考えて、音楽について書きそれを世に出せば自分自身にプレッシャーを掛けることになると思い友人の了解を得て発表したものである。そしてそれが そのまま自分のホームページを作る基となった。尚、友人の掲示板に乗せたその予告文も掲げておく。

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おしらせ
昨年11月だったか生爪をはがしてしまい、それからというもの厄続き。やっと10ヶ月ぶりに楽器を弾く気持と体になりました。ケースから出してみればカビが生えている。ほったらかしにしてごめんな。あっ、自分の指にもカビが…これはうそ。

音楽復帰を塩に、自分自身のやる気向上を兼ねコンバス/音楽のあれこれを話題に小文を掲示板にUPしようと考えつきました。幸い管理人のご了解を得ましたので毎週一回を目途に4〜5回程度やってみます。大した内容にはなりようもありませんが、読んでのご批判/ご感想を是非お寄せ下さい。それをきっかけに脱線/寄り道があるかも知れません。

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目次
”おしらせ”で予告した小文、興が乗ってしまい一気に全編書き上げました。事前の予想を裏切って全部で8週分あります。太田さんごめんなさい。細かい推敲は今後の課題ですが、順を追って毎週末にUP予定。全体のテーマは”バス弾きの密かな愉しみ”としました。とりあえず週別のタイトルを以下に列記します。

治外法権
目立つということ
魂柱
見晴らし
ハモる
弦楽五重奏
あこがれその1
あこがれその2

飽きずに読んで頂けることを願っています。


バス弾きの密かな愉しみ(1)

外法権

コントラバス。 オケでは10本位並ぶが、20人弱程度の合奏団なら1本あれば良い.1本なればこその密やかな愉しみがある。それは譜ヅラにこだわらず、その場その場の感興と工夫でテキトーに遊べること。複数本では決して出来ない愉しみ。合奏の建て前は曲にもよるが当然楽譜通りの演奏。だがバスは譜面台を遠くに立てざるを得ず、その上私は目が悪い。掟破りを指揮者からとがめられた時は良く見えなかった振りをしよう。

なんと放縦な無法者、まさに治外法権。 いや単なるすね者?

去るコンサートではリハーサルに及んでも気分よく遊んでいたら、”その音何?いいじゃん”で晴れて公認。こっちは狼狽。なにせ出来心の音、忘れないよう気を張り詰めっぱなし、遊びどころではなくなった。これはレアケース。通常この遊びを皆に気づかれる事はない。それを良いことに今日もこっそり愉しんでいる。

まてまて、話がうますぎる。本当の所 私は孫悟空なのかも知れない。きんと雲に乗り気儘にやっているように見えても、実際はお釈迦様(人間世界では指揮者とも言う)がお見通しの上黙って遊ばせてくれているだけ、彼の手のひらからは外に出る事が出来ないのかも。

2000/8/25 発表

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ス弾きの密かな愉しみ(2)

目立つということ

コントラバスは地味なようでいてステージでは結構目立つ。小学校へ訪問演奏に出掛けると、終了後なら指揮者/ソリストを差し置いて、本番中には決してなれないスターに変身。子供達が先ほどまで舞台で見ていた馬鹿でかい楽器を取り囲み、弦をはじいて喜んでくれる。

和声的に見ると、バスは根音を担当し、それは何声部かの内声に匹敵して和声全体を支配する。上声(言ってみればメロディ)に次ぐ重要な意味を持ち、いはば裏方元締めとでも言えようか。

これを裏返して見ると、ご承知の如く残念ながら、その音鈍重が故にソロ楽器としては大変使いにくい。合奏の中ではおおむね裏方、黒子。上述のように目立つのは図体の大きさ。ある種のギャグを感じさせ、人の安心感を誘う。見世物/さらし者の一歩手前で辛うじて踏みとどまっているかのようだ。

そんな楽器を構え、ステージ上で私は 意図した音楽を聴衆に解って貰う為体全体の動きも使って表現する。ついでにカッコつけて楽器の大きさなりにオーバーに弾く事だって容易。目立ちたがりやで指揮者になり損ねた人はバスパートへどうぞ。

誰ですか? カッコつけるのに気を使いすぎてリズムが遅れるのは。

すみません。観客に美人が居たものでつい。

2000/9/1 発表

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ス弾きの密かな愉しみ(3)

魂柱


8年間のブランクの末に音楽現場に復帰したが、その一年後に楽器を買い替えた。それが昨年の出来事。その頃から魂柱(コンチュウ)をいじり出した。

魂の柱とは大げさな名前だ。 実体はバイオリン属楽器の表板と裏板とを楽器の腹の中でつないで弦の圧力を支え、ついでに弦の振動を楽器全体に伝達している、かぼそいスリコギだと思えば良い。見れば変哲のない手抜きしたとも思えるみすぼらしい木片、これがあに計らんや中々の曲者。

興味を持つまでは、魂柱?あるのが当たり前よ、ありさえすりゃいいんだ、と思っていた。ある時エンドピンを外してお尻の穴から楽器の内部を覗き込んで見た。あれ真っ直ぐの筈が傾いて立っている。これはきっと良くない事に違いない。手に入れた楽器を能力一杯に鳴らしてみたいとは誰もが思うこと。よしそれならば、と修理道具を買い込んで、音楽の事なら頼りにしている大阪在住の高校時代の友に立て方のコーチを頼んだところ、はるばる遠路を九州まで教えに来てくれた。

始めてみたら彼の忠告通り泥沼の世界。駒の削り/位置調整は目でも見、手に取っても行えるから未だいいとしよう。魂柱立ての作業は表板にあるf型の細い穴から行うって信じられるだろうか。この困難さは知恵の輪に劣らない。

それはさておいて 立てては見た。だがこの音だっ、と確信が持てない。作業の困難を更に上回る音決めの困難。立て方と音の関係はことほど左様に微妙でシビアかつ複雑怪奇であるらしい。賽の河原の餓鬼の如く立てては崩したててはくずし…。

ま、ともあれ前垂れ掛けた 修理のマイスター気分だけは味わえる。

2000/9/8発表

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ス弾きの密かな愉しみ(4)

見晴らし

ステージで見晴らしが利くのは先ず高い指揮台上の指揮者、その次にコントラバス奏者である。いや待てよ、演奏中指揮者は観客を見ることが出来ない。バスならいつでもステージ客席全周パノラマ展望可。するとバスがやっぱり一番か。

私は折畳式の椅子に座って弾く。自分で図面を引き木工所に作らせたもので、椅子とは言え座位は結構高い。ラクして愉しめる。展望が利くのを良いことに最中にあちこち盗み見、おっと品がない観察するのも密かな愉しみ。う、あの人頑張ってるな、そんじゃ俺もとか。ステージの上でこれで結構感動することもあるし、思わすニヤリとしてしまうことだって…。譜面台の陰の出来事、丸見え/まる聞こえなんだから。

展望が利き過ぎる余りの失敗例もある。十何年か前、さる皇族ご夫妻の為にあるオーケストラが演奏をした。お忍びで練習参観という形だった。エキストラとして4回位練習に参加をした後、その場に臨んだ。曲は確かシベリウスの”フィンランディア”だったと思うが、バスパートに延々と繰り返しが続く部分があり、そこに来るのを待って、弾きながら目だけ譜面から離し、くだんの皇族の表情や如何に、と盗み見は大変失礼なので拝見させていただいた…同じ事だが。ふーんよく見ても週刊誌のグラビアとちっとも変わらないな。で、練習量不全の事とて目を戻しても どこまで行ったか解からなくなり、一瞬曲の進行から落っこちてしまった。

頭の中は真っ白。赤っ恥。

2000/9/15発表

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ス弾きの密かな愉しみ(5)

ハモる

コントラバスにはギターと異なりフレット(指板上の区切り)が棹に打ち込まれていないので音のツボを正しく押さえる事は困難。(逆説的にいえば、だから正しい音をつくりだす事が出来るのだが…)加えて弦が長大なので(バイオリンの3倍、ざっと1m余りもある)一発で遠くのツボを決めるのは至難の技(その為にポジション移動を工夫するのだが限界あり)であってまさに止まった時計と同じ。(一日一回だけは正確に合います)そこを何とか一寸違うけど似たような音でお茶を濁す訳だが(この悲惨な実情を我が指揮者に通報しないで下さい)たまたま長音を弾く時にびしっとハモったりするとゾクゾクッと来るほど美しいんだな。(勿論、合奏する楽器の調弦が全部正確に合っていないと起こり得ない。奇跡祈願!)過去 色々な団で数多くのコンサートを経験してきて、全楽器の調弦が合っていたのはたった一度。(それも最初のステージだけ)本番直前調弦責任者は飯も食わずにピリピリして合わせるのだが。(だから悪口は言えない)同じバイオリン属の楽器(正確にはバスはバイオリン属ではないが)で合わせる時は一音一音各自で音程を探りながら弾くので更に困難。然し音程が合った時そのハーモニーの美しさは格別。その場で死んでも良い程。

(なぜみーさんはまだ生きているの?あぁそうか、やっぱり!)

この文章、主旋律に対し副旋律をかっこ()でつけて見ました。ハモって読めたでしょうか

2000/9/22 発表

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ス弾きの密かな愉しみ(6)

弦楽五重奏

かなり一生懸命練習していた頃の話。いい事を思いついた。世にカラオケなるものがある、バスの為にもそれがあって不思議はないぞ。そう、レコードだ。低域をカットしたレコードの音をスピーカーに流さずにイアホンで耳に受け、それに合わせて楽器を弾き、マイクへ落とす。レコードとマイクの音をそれぞれミキサーに入力して自然に聞こえるよう音場をミックス、カセットに録音する。

まてよ、曲が弦楽四重奏ならば、そもそもバスは無いのだから低域カットも必要無い。チェロパートの楽譜を使ってそのまま重ねて弾けば良い。音楽が少しダルくなるかもしれないが、まあ人に聴かせる為のものではないし、と考えは進んで実行してみた。作曲者が意図しなかった弦楽五重奏、カルテットandコントラバス!

これはいい!小編成だから音は混濁せず、バスも埋没しない。従って自分の音程がずれたらすぐ判る。当時弦楽合奏団を作って練習していたがアマチュアの難しさ、10人で弾いたら音程は10通りになってどれが正しいのか常に判らない状態。これは見事に解決。

おまけにプロの間(マ)の取り方も体得できる。ぱっと聴きは世界屈指のカルテットとあたかも共演している様に聞こえ、気分も最高。おまけにマエストロ(巨匠)達は文句も言わず何度でもていねいに練習に付き合ってくれる。加えてノーギャラだ。それこそ毎日毎日これに打ち込んだ。今でも記念に何曲かカセットを残してある。

下手なコンバスが加わった為に 疲れた駄馬みたいな音楽ではあるが。


2000/9/29 発表

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ス弾きの密かな愉しみ(7)

あこがれその1

山口大学に入学してからはマンドリンクラブに入った。その頃ギターが好きでソロテクの習熟が目的。禁じられた遊びにあこがれた。ギターに熱中すればやがてバッハを始めバロックの編曲物に親しむようになる。マンドリン合奏ではロッシーニ等の編曲も手掛けた。そのようにしてクラシックを少しずつ身近に感じて行くと同時に合奏の世界の素晴らしさに改めて取り憑かれていった。

1年の夏合宿で初めて先輩の合奏に加わった時、電流が熱く体を駆け上った。小さい頃からの他楽器の合奏ではそのような事がなかったのに.2年生からはクラブ3代目指揮者として本も読み音楽も聴いた.4年では指揮の降り番で初めてベースを持って舞台に立ったが、やりたい事は他に一杯あり、興味は格別ベースへは移らなかった。(昔のマンクラに言及する時、楽器の呼び方は自然に“ベース”となってしまう。同じ事だが今はバスとかコンバスとか言っている)

卒業後10年目の広島市在住時、市民マンドリンクラブにギターパートで入ったがベースが団にあったのでそれも弾き、その2年後当地中津に永住転居して市内のマンクラに入る際は最初からベース専業を志願した。徐々に合奏の中でバスの持つ意味と面白さを理解していったのだ。それにつれて長年熱中したギターからも又指揮からも遠ざかって行き、大事に使っていたラミレスギターは私が持つべきでないと手放して、代わりに好みの弓を手に入れた。

それにつれてバッハやモーツァルトを編曲ではなく彼等が作曲したとおりの響きで弾きたい、という渇仰は強くなる一方。いかにマンドリン合奏が楽しかろうとも、渇きは癒されなかった。

2000/10/6 発表

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_バス弾きの密かな愉しみ(8)

あこがれその2

逡巡の末、地元の弦楽合奏団に入る。長年のあこがれは現実のものとなった。マンドリン音楽との忙しい掛け持ちの日々が始まる。更に時間とともに変遷があり弦楽合奏に専念すべく自分で弦楽合奏団を組織してバッハもモーツァルトも現代音楽もと色々な時代の弦合奏を愉しむことが出来た。

色々な楽器をゲストに招いて協演したが中でも思い出深いのは、かつての仲間のマンドリン奏者Y氏(現宇佐マンクラトップ奏者)/S嬢をゲストに招き、ヴィヴァルディの”二つのマンドリンの為の協奏曲”をプログラムに加えて発表したことであろうか。実に良い演奏だった。後の宇佐マンクラ創立者M氏も、当時我々にビオラで参加してくれていた。

残念な事に、私の経歴にはブランクがある。最大の穴は一昨年までの8年間。極端だが演奏はおろか音楽を聴くことさえ一切しなかった。弦楽合奏団は解散した。その間不思議な事に音楽的欲求は全く起きなかった。リフォームもする住宅建築会社設立と言う新しい自分の人生の為とはいえこのロスは大きい。

音楽。でもやはり好きなのだ。果物がまた熟すように音楽を再開してみようかと思い始めた折しも、そのM氏からぼちぼちどうですかと彼の宇佐マンドリンクラブに誘われた。流れに身を任せるのも又一つの人生のあり方。以前のように、同時に3団体に所属し2日に一度は練習日という意気込みはもうないが、自然体でエキストラとしての参加で良かったら、との願いを了解して頂き、そのくせ毎回楽しく出入りさせてもらっている。有り難い事である。

2000/10/13 発表

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