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コントラバスを浮かせて弾く

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■ 構え方の変遷その5

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平床に置いた折畳みパイプ椅子でコントラバスを座奏すると楽器はかなり寝るので、楽器の重量を仮に10kgとすると3kg強の重みは上半身に掛かって来る。支えられない重量ではなく、これまでは余り気にしないで弾いて来たが、その重みをなくせるならばそれに越した事はない。この圧迫感除去装置がこれからご紹介するコントラバス座奏用座布団である。私のしている座奏にとってこの効果は大きく、意識と筋肉が楽器を支える事から開放されるので、それだけ演奏に集中出来る。

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この仕掛けは偶然から生まれた。たまたま座布団(これは休憩時間になって椅子に寄り掛からせた楽器が椅子から滑り落ちない為に考え出したもの)がかなり前にせり出されているままバス椅子に深く腰掛けて構えたところ、楽器背面が座布団に受け止められて私の体はフリーになり、そのまま楽器を体で受け止めることなく演奏してみたらとても楽だった事にヒントを得て、それに特化した仕掛けを作って見ようと思った。

真っ先に浮かんだ心配は、座布団のじんわりとした圧迫によって楽器背面板の振動が吸収されてしまい、楽音への悪影響が生じている可能性だった。対応策として柔らかい材質ではなく、ゲンコツ状のものを裏板にあてがって楽器を体から少し離して浮かせる。するとゲンコツは裏板振動の支点になって、作用点である魂柱の足が裏板を励振させやすくなり却って良い結果が出るのではないだろうかと思った(注)。それはちょうど表板において魂柱の頭と駒の足がおよそ2センチ程オフセットされているのと同じような理屈である。ただし裏板では厳密なオフセットが出来なくてゲンコツ状の支点と魂柱との距離は良い加減になるのは如何ともし難い。

(注)このアイデアは野田一郎氏のお考えを取り入れたものである。氏のご了解の下にご本人のアイデアを以下に全文引用してご紹介する。この文は2003年、氏のホームページで発表された。なお、そのアイデアの解説を奥田治義氏が当サイトの「奥田治義の世界」内「僕の野田メトーデ」の第五章「”座奏”のもう一つの本質」で展開されているのでこちらも参照願いたい。

<以下引用文>
弦楽器の表板は駒と魂柱がオフセットで挟み込んでテコの動きをすることで、弦からの振動エネルギーを増幅している。この弦からの振動をさらに魂柱を伝って裏板にも伝えているのだが、裏板にはそのテコの相手が無い。そこで裏板の一部を押さえ込むことで裏板にも増幅機能を効率良く持たせるのが、私が命名した「裏板ブレーキ」である。名前は「ブレーキ」だが「機能」は増幅である。あるヴァイオリンの巨匠も肩で裏板を締めることによって良く鳴るといった。立奏では裏板ブレーキは非常にかけにくいが、座奏では膝などを使うことができる。ただし、ヴァイオリン、ヴィオラでは肩で裏板を締めると、背骨が曲がるのと同時に上半身が硬くなる問題が生じる。
<引用文閉じる>


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仕掛けの詳細は「工房」→「コントラバス奏者の工作室」→「コントラバス座奏用座布団」でご紹介しているのでそれをご覧頂くとして、ここではそれをどのように使っているかをご紹介する。

楽器は座布団の中に仕込んだベニア製の枠に取り付けたゲンコツ2個で支えるが、その座布団に座れば奏者の太ももは枠を押さえるので、楽器が演奏中にずれてしまう恐れはない。枠は尻に当たらないような形状なので着座の不快感はないし、また同時に太ももを柔らかく受け止める目的で枠は蝶番を介して前後に折れ曲がる構造にして着座感を向上させた。
楽器角度の設定は座布団の出し入れとエンドピン位置の前進後退(言い換えれば椅子位置を前後させる)とで調節する。この座布団を使えば体のどの部分も楽器を支える事から開放されるが、しかし胸なり太ももは僅かに楽器に触れさせ、昆虫の触角のように使って体と楽器の相関位置関係を感じておくと安心出来る。

楽器を体のどこにどのように収めているかをご紹介するについて、今回は着座姿勢合成画像の用意がないので、前小文「コントラバスを左に寄せる構え方」に掲げた画像と、次に掲げる図を見ながら読み進んで頂きたい。なお、椅子とエンドピンの距離1m4cmはエンドピン長や座布団の出し入れなどでかなり変動すると思われる。

真上から見た椅子とエンドピンの位置関係
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ゲンコツが裏板に当たる位置。右側のゲンコツは楽器の裏板ではなく角に当たる。
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1) 楽器は従来より4〜5センチ引き寄せた事に加えてゲンコツによって浮き上がったので、前小文では耳より少し高い位置にあったスクロールは私の頭頂より高くなり、楽器の寝る角度は以前の40度から少し立って43度になった。何故かこれで楽器の音が以前よりしっかり耳に入る気がする。

2) 以前より楽器を左に寄せた。エンドピン位置は椅子センターから15センチ左に寄せているが、奏者から見ると顔の中心の延長線にf字にあいた穴の一番低い部分が来る。また正面から見た時に指板は私の鎖骨の先端あたりを縦断している。従来は指板が私の頬に触れるくらい顔の近くを通っていた。この座布団方式の支え方ではこれが限界で、これより更に左に寄せると左ゲンコツの位置が楽器センターに重なってしまい、安定を失って楽器がふらつき始めるので私はその寸前でやめている。このように左へ寄せた為に上腕部が楽器の右肩に触れてしまう可能性が更に減り、同時に自然に腕を下ろして弓を構えれば中弓の少し先あたり弦が当たるので先弓が楽になった。よく考えたら先弓の時は楽器と体の芯との距離感は立奏していた頃に似ている。

3) 椅子には可能な限り深く座る。これによって、言い方は変なのだが音楽の見晴らしが良くなった。上半身を椅子の背に完全に預けてすっきりと良い姿勢で弾く事も、逆に楽器に覆い被さって弾く事も出来る。浅く腰掛けると覆い被さる事がそれだけしずらくなる。

4) 足の位置は従来膝頭の直下に置く努力をしていたが、今は座奏するバイオリニストのようにその時々に取りたい演奏姿勢次第で前に出したり座面の横へ引き付けたりしているが、一番良い足の位置は下図のように左足を斜め前へ、右足を引き付けて椅子の脇へ置くこと。理由は引き付けた右足で踏ん張れるので上半身の姿勢コントロールが楽になって前へ倒し気味に出来、それによって弓を無理なく駒のすぐそばに置く事が出来、同時にE弦先弓でふとももに手首が衝突する可能性が低いから。駒のすぐ近くに弓を置ける容易さを獲得出来たのは、勿論足の置き方だけでなく新しい構え方全体によるが、それは従来の私の構え方とは一線を画している。そのような構え方が出来るのも上半身と両ふとももが楽器を支える任務からフリーになったからだ。
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この構え方ではローポジションの使用を極力減らしているのは以前と同じで、更に横目で指板を見る事も出来ないが、それは確かパイプ椅子に座るようになった2006年秋ごろに指板を見ないと決心して以来守っていることだ。

先の事は解らないが、この座布団によって私の構え方は終着点に更に一段と近付いた感触がある。或いは断定は出来ないもののひょっとしてここが私のゴールかも知れない。

2008・4・3

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