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仮想アンサンブル (私のバス練習)

今私が一番やりたい演奏形態は弦合奏である。

理想を言えば、その人数は10名から15名弱まで、指揮者は居なくて音楽的なリーダーシップは経験を積んだコンマスがきっちり握り、団員から曲解釈の提案と討議を自由に許すけれども最終決定は当然コンマス、出来ればコンマスは定石通りファーストバイオリンから。ステージではバスもメンバーが作る半円形の中に入ってアイコンタクトを共有する。(チェロ的座奏なら違和感なくその中に溶け込めるに違いない) 練習は週一回みっちり2時間。月に一回は日帰り合宿とでも銘打って日曜日に午前中から集まり、昼食を共にして3時過ぎに散会、実質4時間以上の練習。団は色々な楽器のソリストを迎える解放的な雰囲気を持っている、と言うもの。年2〜3回のコンサートをこなしたい。こう書くと現実にそのような団があるように思えてくるが、あくまでも私の頭の中にしか存在しない。

8年間のブランクの後、1998年音楽現場へ復帰して以来、現実はそのような団体が近くになく、人を集めて二度目の合奏団創設を試みる元気もなく、そんな団体がいつかどこかに現れるのを待つ間、他の音楽グループからのお誘いは有難く賛助で出演させて頂く、というスタンスを取り続けている。

こじんまりとアンサンブルする事を音楽最高の楽しみと思っていて、しかもどこにも所属をしていない私は今、楽器演奏へのモチベーションを保ち、演奏レベルを向上させる為にCDと合奏するという方法を採っている。奇妙で孤独な作業ではあるが、仮想アンサンブルには現実の合奏とは異なる積極的なメリットがある。

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合わせる曲を選定するのに選曲会議を開く必要はない。自分のレベルと興味次第だが、為になってしかも面白く、音楽的/オーディオ的に違和感の少ないのは弦楽四重奏(SQ)との協演だ。そのチェロパートをそのままバスで演奏する。

SQを一押しに選ぶ理由は、そもそも凝縮された音楽で緊迫感があること、譜面は音符の粗密と関係なくどの部分も雄弁で意味が深く、SQとのアンサンブルはこれまで経験したどんな練習より充実して時間の経過を忘れてしまう。

合わせる人数が五人と少ない為に自分の失敗や演奏のゆるみがあらわになって大変良く判るし、バスの音域に他楽器の音がなく自分ひとりなので"p"でも自分の音がよく分離してクリアに聞える。

アマチュアの弦は音程に問題があることが多い。合奏になるとどれに合わせてよいものやら迷ってしまうし、自分の音も他人を迷わせてしまっているだろう。でも仮想アンサンブルなら安心。音程は安定、音が濁れば悪いのは必ず自分だ。例えば導音を少し高く取るのを忘れたら間違いなく合奏の音は汚れて聞えるはずだ。このアンサンブルを通じての音程訓練は機械的でなく、楽しさを伴う。

作曲者に断りなくクィンテットにしてしまうのは申し訳ないことだが、SQにバスを加えた音楽を聴き慣れると同じ曲をバスなしでは何だか軽い曲に聴こえてしまう、それだけこのやり方は音楽的に違和感が少ないということではないだろうか。もしこれを録音するなら、当然バスソロの曲ではないのでバスの入力レベルは押さえる必要がある。私はMTR(多重トラック録音機)を手に入れている。そのうちこれを使ってこのような変形五重奏曲を沢山録音したい。

このようにして全ての弦楽四重奏曲はバスの為のクィンテットマイナスワン、つまりバシストのカラオケ音源と読み替えることが出来る。SQの曲なら豊富にあって手に入れやすい。お手本演奏は曲の中でチェロがやってくれているし重ねて弾いてもオクターブ低いので独立性も維持できる。考えてみればこれはバシストに与えられた特権的練習方法ではないだろうか。

それに加えて、大変有難いのは、CDとの協演はプロ演奏家達の曲解釈に身をもって参加/体験できるということ。実際に多くの世界的に高名なカルテットによるアンサンブルレクチャーを何度も受けるのは不可能に近いことなのに、それが易々と、たった千円か高くても三千円程度のCD投資だけで、朝となく夜中となく緻密なアンサンブルを教えてくれるのだ。現実に参加している合奏団なりオケがあったとしてもスケジュールの詰まっていない時にはやって見る価値がある。

現実の世界では避けられない問題の幾つかは難なくクリア、例えば自前の楽器を練習会場へ運ぶ手間も不要、練習時に指揮者が他のパートへ指示を与える間何もせずに待つという時間の無駄もなく、一時間の練習時間をとれば、正味一時間の間充実した深い練習になる。しかしこの演奏家達は合奏を言葉で教えてはくれないので何をどう考えてそのような音楽表現にしているのかという憶測をしないと彼らの意図を見逃してしまう危険性もある。とは言え、そのような背景を探ることも自分の感性を磨くのに役立つはずだ。

また同じ曲で演奏家を変えて合奏すると面白い。同じ曲を何枚か手に入れて、どのSQとアンサンブルしようかと試奏するのは、プロをオーディションしている気分で痛快だ。

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実際に仮想アンサンブルするときには若干気を付ける事がある。

例えば弱起の曲などでvnが半拍先行しチェロパートが遅れて入るときは問題ないが、頭から音を出さねばならない時は完全に一音やり過ごしてから入った方が良い。

4弦バスの最低音はEだがチェロは楽譜上ではそれより2全音低くCまである。Esより低い音はオクターブ上げて弾かざるを得ないが、機械的に上げると流れが面白くない場合があるので、そんな時にはちょっとしたアレンジをせざるを得ない。

演奏するときは遠慮をしないこと。高名なプロに合わせて貰っている、とへりくだった考えをするとリズムは間違いなく遅れる。彼らには申し訳ないが、私は自分が合奏をリードしていると思う事にしている。その方が結果が良いからきっとそれで良いのだろう。

大変困るのはチューニングがCDによって皆違うこと。今練習している二曲は3Hz隔たっている。CDを変える時はチューニングを取り直しているが、1Hz単位で音源のチューニングを変えられるような(演奏時間を変えずに)ものがないかと探している。カラオケにはそのようなものがあるので、どこかにあると思うのだが…。

再生装置にラジカセを使うのでは合奏している気分になれない。一応のレベルの装置を使おう。

もしSQでなく、バスも入った音楽に合わせて演奏する時は音源の低域をある程度絞って合奏している。それでもすこしモガモガした音楽になるのは仕方ない。

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このような合奏ともいえない合奏を始めたきっかけは、私が創設した中津室内アンサンブルでコンマスが弦楽四重奏曲をそのまま弦合奏しようと提案したことに由来する。その曲を個人練習する為にレコードに合わせて演奏してみたところ意外に面白い。当時しばらくはこのやり方に熱中した。

15年前このような練習をした時にはレコードを使ったからトーンアームの上げ下ろしが大変だった。今はCDが行き渡り、楽器を構えたままリモコンクリックで好きな楽章を再生出来る有難いご時世である。

2003/4/5

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