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コントラバスの構え方 (チェロ的座奏)

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■ 構え方の変遷その2

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 目次
1)  前書き
2)  従来の構え方の問題点
3)  新しい構えの外見的特徴
4)  演奏姿勢を決める為の実験
5)  新しい構えの長所
6)  この構え方の欠点
7)  追体験する為に
8)  終わりに
 

■ 前書き:
コントラバスの構え方やその意識の持って行き方は,その人の体格によって,楽器のサイズ/形状によって,熟練度によって,構え方の好みによって千差万別ではないだろうか.従って最大公約数的構え方/平均値的構え方は存在するとしても,誰にでも勧められる定番的構えは存在しないと思っている.つまり言いたいことは,構え方とはごく大雑把な事以外は最終的にはその時期その時期の自分の感覚において決めるものだ.

教則本の著者の写真を見てその通りに真似るのは悪い事でないにしても正しい事かどうか何とも言えない.立奏している頃に持っていた教則本の著者(外人)の楽器の支え方は苦痛で決して私には真似が出来なかった.プロ野球を例に取る.バッターは長方形の枠の中に立って飛んでくる球を打つ,制約条件はそれだけだ.だが構え方は様々,飛んでくる球から目を離さない/バットのヘッドスピードを最大にする,などクリアしなければならない課題の解決法なら多分バッターの数ほどある.

これから述べるバスの構え方への試案も閲覧者に強く勧める目的でご紹介するのではなく,バシストの取りうる選択肢の一つとして見て頂ければ良い.この小文を読んで良い予感を持てば(自分に合うかどうかはある程度”予感” が教えてくれる)試みられてはどうだろうか.その際はご自分に合うような工夫を加えて頂きたい.ともあれ,下手な奏者であるのを省みないであれこれと申し述べる事をお許し願いたい.

最初に椅子に触れておく.やがて20年になるバス椅子生活を通じて,構え方に直結している座奏用椅子は出来あいではなく,自分に合うものを作るべきだと信じている.椅子に自分の構え方を合わせて行くのはどんなものか.自分の奏法を椅子の僕(しもべ)にしてはならない.弓はある程度技術が上がれば良いものを手に入れたくなるだろう.それは技術ワンランク向上に欠かせない.バランスの良い弓ならよりたやすく演奏が出来るからだ.椅子もそれと同じく重要であるか,もしくはそれ以上だ.だからこそ椅子は自分のやりたい構え方に合わせて作るし,その後も微調整してゆくものだと思っている.ご自分で作れなければ町の建具屋さんに依頼しよう.座面まできれいに取り付けて貰おうとすると作り家具屋さんの仕事となるが,その座面だけ自作するなら取付はマジックテープを利用するとして,座布団を縫う腕があれば自宅のミシンでなんとかなる.

”工房”の”バス椅子博覧会場”はこれから椅子を検討する人の為に用意した.既にご自分でバス椅子を試みられた方はその次に来る者への資料として画像/コメントなどのご提供をこの博覧会場へお願いしたいものだ.趣味を同じくするもの同士,助け合いたい.

体にフィットする良い道具は使う者の技術を補ってくれる.マリナーズのイチロー選手はじめプロの運動選手の道具に対するあのこだわりは我々にも参考になる.

ところで私自身の椅子のスペックは”工房”→”コントラバス奏者の工作室”内”第4号バス椅子の製作”で詳述している.しかし製作後三ヵ月の今,構え方と共にスペックは変わった.変更点は座面高さをさらに縮めて実質50センチ,その代わり座面の奥を24ミリ高くして聴衆に向かって座面に傾斜をつけた.この傾斜は作業椅子などに採用してあるもので,楽をする為に座る椅子とは考え方が逆だ.エンドピンの位置も右側に変わった.これについては後述する.
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本題に入る.

 従来の構え方の問題点:
これまで私の構え方は”第4号バス椅子による演奏姿勢”の中の古い構え方の画像で想像はつくと思うが,楽器と体は平行を心掛け,そして芯を出来るだけ合わせるというコンセプトだった.楽器を真後ろから抱くのを理想とし,それが出来ない分だけの範囲で体をずらせるというもの.

この小文の直前までしていた構え方の説明画像
コントラバスの構え方(直前まで)


上述の構え方概念図
コントラバスの古い構え方概念図


その私の構えでは後ろから右手を回して表に持って行くので 1)駒そばまで弓が届きにくい 2)駒そばを弾く為に腕を伸ばせば楽器の右肩に肘の内側が当たる,という欠点があった.

またネックが首のすぐそばを通るのでローポジションで左肘が上がり,誇張して言えば頭の後ろを掻くような窮屈さが伴った.駒そばを弾く為に楽器を引き寄せれば,楽器が寝ている為に指板先端は一層後方上空へ去ってゆく.従ってE弦Gisより下以外ではポジションを使用していた.

左肩を引いてローポジションを押さえる方法もあるが,そうすると自然に右膝が前にせり出し,その膝頭は裏板に当てているので楽器が左を向きたがる傾向があった.

とは言え,これらの問題は私がこの構え方を十二分に研究しなかったという責めを負うべきかも知れないし,私の体と楽器が構え方に適合しなかった為かも知れない.いずれにせよ,この構えに安住出来なかった.
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 新しい構えの外見的特徴 :
一つ目は椅子,自分の足,楽器の三つとも同一平面上の平床に置くことで,これは去年から試みていた.体と楽器の相対位置関係が破壊されるのでなければ道具は単純な方が良い.
二つ目はチェロの構え方にちょっと似ていて楽器を両膝のあいだに入れる.これが今回の新しい試みで最大の特色.なお,私の身長は172センチ,楽器の全高(ピン長を含めない)は181センチ.
コントラバス座奏の新しい構え方


見掛けは両膝で挟みつけているかのようだし,胸の下でネック基部を受け止めているように見えるし,ネックも肩で担いでいるように見えるが,実際は膝で挟むのではなくて楽器の両脇を両太ももに乗せているだけであり,上半身は左手も含んで楽器支持に全く関与させない.だから例えば上半身をのけぞらせて左手を楽器から離し,その状態で楽器の姿勢をコントロールしながら安定して開放弦の弓奏が出来る.

楽器は以前より更に寝そべって斜めに私の懐に入ってきた.例えの引き方は大変良くないが,古い構えを大きな女性を後ろから抱く形とすれば,新しい構えは座ってあぐらを掻き,赤ん坊を前方向きに足の間に座らせて斜め後ろからミルクを飲ませるようなものだ.古い構えをストイックというなら新しい構えはルーズだ.

実際の演奏時には弓を持つ右腕が伸びるので自然に肩のラインは写真画像よりわずかに左を向く.ローポジションではそれに加えて左肩を引くので胸は更に左を向く.しかし膝頭を楽器に当てていないので左右の膝が前後しても楽器の姿勢は安定している.
コントラバス座奏の新しい構え方概念図

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 演奏姿勢を決める為の実験:
その1
バスの弦長はおよそ104センチ,駒上10センチを弾くとすればハーフポジションの指頭から弓道までざっと90センチ離れている.そこで90センチの棒の上下端を両手の平で押さえて演奏する形に構えてみる.右手はおへその前だし左手は後頭部の更に後ろに位置するだろう.座奏だからその棒はネックの通りに寝ている.そこで首の直ぐそばを通す場合と,左手を左に少しずらせて肩の関節近くまで持って行った場合を比較してみよう.それによって左の肩と肘が思った以上に楽に使えるのが判るだろう.私の構えの一つの柱はここにある.

その2
次の実験では前項の実験を計数的に掴んでみた.左肩のネックを通すあたりに小さい手帳を乗せてみる.その短辺は7センチ.首に近い端をA点,遠い所をB点とする.当然AB間は7センチだ.
次にA点を触る為に伸ばした手の左肘がそばの壁に触れるような位置に座りなおす.そこで肘の位置を壁に印する.そのまま今度は手をB点に触れる.左肘は壁伝いに下がって行くが,そこで又印する.どれくらい下がると思われるだろうか.私の左肘は17センチも下がるのだ.これがネックを首筋から少し遠ざけ,ローポジションではさらに体を開く根拠だ.
コントラバス座奏での左手位置探求

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 新しい構えの長所:
1) 楽器が懐に収まったという安心感.足を床に直接下ろす事も加わって,これまで私が試みたどんな構え方より演奏時に楽器が安定している.

2) 体が駒に近づくので,もっと駒そばを弓道(ゆみみち)にすることが可能になる.

3) しかも2)はローポジションの弾きにくさを伴わず,左手の肘を下げたまま押弦出来る.ローポジションを押さえる時は腰から上を少しひねる事で左肩/肘が大変楽になり,筋肉の過度な緊張を伴わない.上半身は楽器を支持していないので自由に動かせ,その動きはほとんど楽器に伝わらない.

4) 足の位置を従来より広げることが出来るので体を安定させる事が出来,その為に弓先を弾く際に右手を伸ばしても体の芯がぶれにくい.

5) 楽器の右肩が弓を持つ右腕の邪魔をしない.

6) G弦を弓先で弾く際,楽器が寝ている為に右手首は前方でなく斜め上方に進むので無理な姿勢になりにくい.

7) 譜面台の高さは思い切り低く,vnやvcと揃える事が出来る.但しこれはメリットに算入することが出来るかどうか.発想記号を楽譜に書き込むのにふらふらしないのは確かだが.
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 この構え方の欠点:
1) これは私だけの状況かもしれないが,もっと体を楽器に預けたいのだが(言い方を変えれば尻を突き出したいのだが)それには幾つか方法があるけれども,私の構え方ではエンドピンを短くする以外に,体の他の部分に悪影響を及ぼさないという方法がなく,それをするとエンドピンレストに命中しなくなるので困っている.折り合いをつけて2センチ縮め,エンドピン長を楽器の尻から17センチにした.座面を観客側に傾斜させたのも副次的ながら欠点改良に少しは関与していると思うが,これらだけでは足りないので腰当てつきの椅子に改造出来ないものかと考えている.しかし1時間程度の座り続けならこのままでも良い.

2) 正面から見て楽器が斜めに立つ事.これが最大の弱点だが,これにどのようなデメリットがあるのか,それを打ち消すにはどのような弓使いをすればよいだろうか.これに就いては良く判らない.これまでの所,特に何の配慮もせず普通に演奏していて問題は感じないが,だからと言ってこのままで良いものか.弓が弦に常に斜めに当たるので補正する必要があるかもしれないが,一方”バス弓斜め弾き”のメリットがあるのかもしれない.でも斜め弾きが気になる人には向かない構えだ.また,私の試行ではうまく行かなかったものの,楽器を左膝だけに預ければ全くチェロ的な構えになるが,斜めに傾く事は防げる.しかし楽器の安定性は阻害されるはずだ.楽器の大きさ/重さから見てチェロそのものの構えは無理が生じると思うのだが///.

3)  譜面台まで含めてかなりのスペースを要求するのでオケなどでは周囲の協力が必要だし,ステージに乗れるかどうかが問題になるかも知れない.

4)  譜面台が遠くになるので,邪魔にならない範囲でぐっと近づけてセットするが,更に別の工夫が必要な人もいるだろう.この工夫例は”工房”→”コントラバス奏者の工作室”→”コントラバス座奏用譜面台”に展示している.

5)  立奏とプルトを組むのは絶望的だ.
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 追体験する為に:
1) 先ず床に普通の状態のままに置いた普通の椅子(但し後ろに向かって低くなっている安楽的椅子は使わないほうが良い)の脚に雑誌などを敷いて座面を少しだけ高くしてから両足を少し開き気味にして座る.もし使うエンドピンレストが,私が使っているような小さいものでなければ座面を下げてエンドピン長も短く出来る.つまり私が椅子の座面を少し高くセットしているのはエンドピンを短く出来ないという理由から.

2) 右膝が,ちょうど楽器のくびれに気持ちよく収まるように楽器をセットする.楽器のウエスト上部を太ももに引っ掛けて乗せる.楽器の角が当たって痛くなるなら楽器を少しずらせるかエンドピンを調節するか足の位置を調整する.

3) 次に左膝も楽器のくびれに気持ちよく収まるように調節する.左膝は体格や構え方によっては楽器の外に出さなくても良いが,両膝で楽器を挟む形の方が安定するので,そちらがお勧め.上述したように私は挟むと言うより太ももに楽器のくびれを乗せるという感じにしている.挟むのは筋肉の緊張を伴うが,乗せるだけなら無駄な緊張がない.エンドピンレストを使うことを前提に,楽器を支えるのは両太ももだけに任せ,両手と上半身はフリーにしてしまう.なお,画像でお解かりと思うが楽器のくびれに入れる私の膝は右の方が深い.チェリストの構えは左膝に楽器を寄せているが,バスは右膝の方に意識を持って行ったほうが良い結果が生まれると思う.

4) エンドピンは体の中心線より心もち右側に突く.左に突くと体全体を常にかなり左に捻らなければならなくなり疲れる.位置を決めるまではエンドピンレストでなくDIY店で売っている人工芝か粗いカーペットの30センチ角を1枚買ってきてピンの位置を色々に試した方が,紐をいちいち調整するより便利だろう.その際,裏には両面テープを貼り付ける.

5) 楽器の右肩が右腕の邪魔にならないように,またネックが自分の肩幅からはみ出ない程度に楽器を体に納めてみる.接触が不自然な感じを受けないよう,また右手/左手とも楽に動かせる位置に楽器を微調整し,それに合わせてエンドピン位置や長さを調節する.このとき体の正面をバスが斜めに横切るような形になるが,私にとってはそれが一番自然に感じる.また楽器がかなり寝てしまうので,エンドピンが滑りださない為にエンドピンレストは必需品.ネックは肩で担がないこと.微調整は何日も何週間も掛けて実際に演奏しながら行う.最後は1センチ刻みの調節を覚悟せねばならない.
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 終わりに:
この構えはチェロ演奏法の本(注)を買ってぱらぱらと眺めているうちにイメージが固まった.本の購入は2月20日だから日は未だ浅いが,構えの改造に取り組むあいだ中,甘い期待感に満たされていた.このような構え方をする人が既にいるかどうかは知らないが,きっとこの構えで私は幸せになれる,そんな思いだった.そして楽器コントロールが容易になった今,私は幸せだ.

然し,最初にも述べたが,これが一般的にベストな構えだと言うつもりはさらさらなくて,この構えの画像と説明からピンとひらめきを感じた人,つまりそれまでの私と同じ問題点を抱えていて,この構え方への準備が整っている人に試行をお勧めしたい.

振り返って初めて合点が行くのだが,私はフレンチ弓を使おうと思った当初からずっと,意識の下でこのスタイルを目指していたようだ.つまり野田奏法を知ってからここに至るまで三年掛かったが,このスタイルへの機は熟していたと見えてチェロ演奏法の本が目に入った時余り迷わずに購入した.そういえばごく初期に,野田さんの構え方はいまの私のようなスタイルだと誤解していた事を思い出した.

この座奏のネーミングには苦慮している.取り敢えずは”チェロ的座奏”としたが,バスの構え方なので他楽器の名前を使いたくはない.どなたか良い知恵はないだろうか.

(注) 新しいチェロ奏法(身体に優しいチェロ演奏のために)
   ヴィクター/セイザー著  音楽の友社   練習日記へリンク


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2003/3/15


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