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雑談/音楽鑑賞 その2

如何に立派なオーディオ装置を持っていたところで、雰囲気を感じ取る助けになるとはいえ、聴くのは周波数特性や定位やダイナミックスそのものではない。だから録音盤の音質が悪くても演奏家の言いたい事が聴き取れればそれで構わない。少なくとも極上の録音で心に残らない演奏を聴くよりはましだ。とは言うものの、オーディオには一時期凝りまくった。底なしの深淵に溺れかかり、はっと気付いて生還する事が出来た。楽器演奏を趣味にしていなかったら、今頃は溺れて死んでいた事だろう。

年代の古さの故に悪録音に近いリパッティとの最初の出会いは店の外の叩き売りだった.25年くらい前2000円盤が半値以下。 リパッティを知らなかったので、安さだけに惹かれて買ってみたが、精神的な意味を込めてこれほどまでにコストパーフォーマンスの良い買い物はしたことがない。

気に入った曲は演奏者を変えて何枚か買う事もある。これも面白い。 一番数の多い所蔵盤はストラビンスキーの”ペトルーシュカ”。確か7枚あると思う。 次がJ。Sバッハのモテット集(無伴奏の合唱曲)、4〜5セットくらいか。不思議な事に、一番気に入ったアーチストは最初に買った盤である事が多い。バッハのモテットは一曲ずつが演奏時間も20分余りと適当な長さで聞き飽きず、”イエス我が喜び”や”主に向かいて新しき歌を歌え”は曲が終われば必ず”良いなぁ”と独り言を言ってしまう。気に入っている演奏者のほんの一部は”管理人室”の”みーさんの素顔”に列記している。

録音盤の音質は懐古趣味ではなくアナログの方が優れていると思っている。操作の便利な点など音質以外ならCDが勝っているが、一番大事な点での研究をCDメーカーにお願いしたい。信じられない位微細な事でもデバイスや技術の一つ一つが音に与える影響は大きいようだが、CDのクリアな音質が音楽を音楽的に響かせる事に必ずしも貢献していないように思えて、今のところはまだアナログレコードをCDに乗り換えて聴く必要は薄いと感じている。食品のテレビコマーシャルで、食べる口元を大写ししている場面が良くあるが、丁度それを見るような居心地の悪さを感じるのである。

余談だが、所蔵するレコードには色々面白い音が入っている。 録音会場(教会)の外を通る車の遠いクラクションの音、録音スタッフ(多分)が歩く音、録音ケーブルが床で引きずられるように聞こえる音。 でもそれはかすかだから、これらは決して音楽を邪魔してはいない。 同じ雑音でもこれがCDなら耳障りになって再テイクになるに違いない。逆にテイクを切り張りしている事が余韻の残り方で解る録音はそれが僅かであってもいただけない。

コンサート会場での印象的な出来事は、この室の”涙”でも一寸触れた。私は地方に住んでいてなかなかアーチストに恵まれない。だから書きたいエピソードも多くはないが、あえて言えばコンサートはその行った回数だけ感激がある。行かなければ良かったというコンサートは稀だ。

大阪でソフィアゾリステンという弦楽合奏団を聴きに行った時は、そのファンだったから曲が終わるたびに盛大な拍手を送った。プログラムが終わってもアンコールのたびに長々と盛大に手を叩いた。聴衆皆も同じように感動したのか、私につられたのか、また団員はその日の気分も良かったのか、結局プログラムよりアンコール曲の演奏時間の方が長いと言うラッキーなコンサートだった。こちらの手も腫れたが、全員立奏で暗譜だから弾く方も大変だったろう。

苦手なのは大音量のPAを使う音楽。 これは途中で何度も耳を冷やしにロビーに出て行かねばならない。結局半分位しか聴く事が出来ず、入場料が勿体ないと悔やむのである。我が家にあっては、やれオーディオの音が大きい、バスを弾くならドアを閉めろ、テレビの音量を絞れとやかましい家内は、逆にそんなところへ行くと年齢をものともせずにノリノリで腰が痛くなる程客席で踊って帰って来るようだ。信じられない。

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ちょっとクラシックに興味があるけれど、何を聴いたら良いだろうと尋ねられた事があった。この類の返答には実に困る。 妙な答えをすれば、そのせいで折角のクラシック愛好予備軍を一人殺す事になりかねない。勝手に手当たり次第聴けば? と突っぱねても同様の結果だ。

大事だと思うのは構えずにさりげなく聴いて貰う事。何かをしながらBGMとして聴き流すと言う状況設定をもアドバイスすると良いだろう。一般的には曲が有名であるという理由からか音の賑やかなオーケストラ曲が好まれてはいるが、BGMとして聴くならダイナミックスの大きくない室内楽かソロが聴きやすくて適切ではないだろうか。ソロを選ぶならピアノかハープかギターか、間違ってもバイオリンの無伴奏パルティータなどの辛口は避ける。自分がバスを弾いているからといってもゲーリー/カーのバスソロも危険だ。ソロ楽器でもないバスで独奏する難しさを割り引いてとか、或いは彼のステージでのユーモアを思い浮かべながら_という聴き方をしてはくれない。

これしかないとの思い込みで特定のジャンルにせず、時代と楽器構成にバラエティを持たせて一晩掛かってお勧め一覧表を作成して渡す。後はそれを聴く本人次第。 それくらいの覚悟がないと、この種の気まぐれな質問を正しくかわせない。徹底的に付き合うつもりが無いならこんな質問が出そうになったら慌てて話題を変えることだ。

私には涙ながらの経験がある。 姉から同様の質問を受けた。一寸何か良さそうな曲をカセットに録音してよ。私もそのつもりで取り掛かったが、構想はどんどん膨らみ、ついには持っていたレコード800枚の中から好きな曲と注目すべき曲を全部で93曲、それも現代に至るまで時代順に並べて歴史の流れが感じられるようにし、レポート用紙35枚の解説書(すこぶるワタクシ的な、私はどう聴いているかと言う、それぞれの曲の短い感想文)付きになってしまった.3ヶ月位は掛かっただろうか。 録音盤と演奏形態それぞれに異なるダイナミックスを録音の際に調整し、曲の間に雑音が入らないよう気を使って作り上げた、当時最上の90分カセットテープは30本位になった。

これを姉はモーツァルトの部(テープはたったの二本)を愛聴するのは良いとして、渡してから15年は経っているのにその他の曲は全くと言って良いほど聴いていないと言う。せめてそんならその中に入れたハイドンは聴かないのかロッシーニだって?と思うのだが渡した以上は私のものではなく、どう使おうと文句はつけられない。

しかしこんな経験でも十分に私の為にはなった。自分の為だけに録音を思い立つなら感想文まで書く事はなかっただろうし、在庫棚卸しを試みる事もなかっただろう。結局は自分の肥やしになったのだ。 少し前だが、姉から私が書いた解説書をまだ持っているよと聞いてコピーバックして貰った。読み返してみて15年前の私に出会った気がした。

2001/12/17

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